※やまなしいみなしおちなしギャグです、ひとつ温かい目でご覧下さい。





☆Lesson.1


 ガランとした放課後の教室。最前列の席に座って教師を待つ山本がグッと伸びをした。
「ん〜、眠みぃなぁ」
「山本、寝たら獄寺君に殺されるよ」
「…バレなきゃいいんじゃね?」
「いや、絶対バレるよね?3人しかいないんだし」
 山本の左隣に綱吉、右隣にはバジル…と教室にいるのはたったこれだけだ。確かにこの人数では居眠りをするのはかなり難しいだろう。
「そうだな、相手は獄寺だからなぁ…用心しとくにこしたことないよなー」
 ゴソゴソとペンケースを探って一本の黒マジックを取り出した山本は、右隣の少年にそれを差し出した。
「バジル、悪りぃんだけどさ、これで俺の瞼に目描いてくんね?」

(ナメられたもんだよ獄寺君も…)

 ペンを受け取ったバジルが突然の要請に首を傾げる。
「め、ですか?」
「あぁ大丈夫だって、ちゃんと石鹸できれいに消えるやつだからさ!思い切って描いてくれていいぜ」
 何がしたいのかイマイチよくわからなかったがする事は簡単だと、バジルはポンッとペンのキャップを抜いた。
「はい…わかりました!めは拙者も習ったばかりなのでちゃんと書けると思います」

(習ったばかり?)
 妙な応答だが、ともあれ本当に書くらしい。興味をそそられた綱吉が席を立って覗き込む。

 目を閉じた山本の瞼にそっと黒マジックが乗せられた。きゅ、きゅーっと左右の瞼にひらがなの「め」が書かれていく。 
「ちょ、バジル君…!」

(意図がわかってない!)

「山本殿、できました!」
「サンキュー!よぉーしこれで思いっきり寝れるな!」

(気付けよ山本)

 スパァンッ!

 綱吉の心の突っ込みは、清々しい音を放って山本の頭を引っ叩いたスリッパによって解消された。
「あ、ごくでら…」
「アホが、今すぐ顔を洗ってこい!!」

 獄寺先生、登場。





☆Lesson.2


「今日はセクハラについて教える。なぜそんなことを学ばなければならないのかは、自分の胸に手を当てて良く考えてくれ」

 言われて、最前列に座った3人が訝しい表情で揃って胸に手を押し当てる。
「あぁ!10代目は違いますよ!!10代目は今日、監督官としておいで頂いたので!」
「そうなの?」
 死ぬ気弾で幾度もぱんつ一丁になった件を問われるのかとドキドキしてしまったが違うらしい。いや、そもそもあれは不可抗力だから仕方ないのだが。

(っていうか、オレになんの監督をしろと)

「バジルもいい、おまえは見学しに来ただけだろ」
「は、はい…でもそれじゃあ」
 一体誰に向けられた言葉なのか。二人の視線が自然と真ん中に座る少年に向かっていく。

 山本は唸りながら首を傾げた。
「んー、何も心当たりねぇな」

「てめぇ…昨日の出来事を振り返って、もう一度よく考えてみろ」
「昨日?昨日は…部活終わってから獄寺の家に行って…そしたら獄寺が風呂に入ってたから、ちょうどいいやって俺も入っていって」
「入ってったの!?」
「ね、おかしいでしょう10代目!?」
 そりゃあ突然無断で家に上がりこまれた挙句に風呂にまで入って来られたら怖いだろう。縋るような獄寺の視線に綱吉はちょっぴり同情した。

「えー、そうか?普通じゃね?なぁバジル」

(バジル君に振るなよ)
 さぞや返答に困るだろうと思いきや、何の汚れのない青い瞳は無邪気に笑んだ。

「はい、親方様も拙者が入浴中によく入って来られましたよ!山本殿も背中を洗いっこしたり湯船で100まで数えたりなさったんですか?」

(オヤジ…何してんだよ)
 子供か!と青ざめる綱吉の横で、問われた山本が小さく唸って腕を組んだ。

「ん〜、洗うっていうより、舐める?あと100まで数えるっていうより突…」

 パァン!

「てめぇはもう黙ってろ!!!」
 山本の顔面にスリッパが飛んだ。

 心なしか涙目で真っ赤になっている獄寺を見て、綱吉は俄かにこの授業が開かれた意味をただ一人理解した。





☆Lesson.3


「セクハラとは、対価型と環境型に大きく分けられる。対価型は自分の地位を利用し相手を脅かして肉体関係をせまるものだ。環境型はさらに3つに分類され…」

 カリカリと黒板に字を綴っていく獄寺の後ろでバジルが元気良く手を上げた。
「先生、山本殿の瞼が今にも閉じそうです」
「なんだと?」

(…バジル君、普通にチクっちゃったんだけど)
 まぁオレも気になってたけど、と隣でうとうととする山本を揺すって起こしてやる。
「山本起きて、バレたよ」
 ん〜…、と山本が眠そうに唸って目を擦った。
「なんか難しいと眠くなっからさ、出来ればもっとわかりやすく教えて欲しいのなー」

要するに、された側が不快に思うような性的言動だ

(ものすごく短く纏まった…)

「ちなみに、第三者が見て不快に思った場合もセクハラとなる」

(それ、オレしょっちゅうなんだけど)
 隙あらば獄寺の肩を、腰を、尻を触る山本とか、山本とか、山本とか…。思い出して、うーんと綱吉は首を捻った。
(でも獄寺くんも強ち嫌がってるようには…)

「では今の要点を頭に入れて、これから述べる事例をよく聞いてほしい」
 チョークを置いた手を軽く叩いて、獄寺は教壇の両端に手を突いた。

「先日うちのクラスで、男子生徒に『おまえ何カップなの?』と聞かれた女子生徒がそれはセクハラだと憤って男子生徒を引っ叩いた事件があった。誰の目にも明らかなセクハラ発言に違いなかったがその時、女子生徒はこんな不思議なことをいいだした。『なんでアンタにそんなこと教えなきゃなんないのよ!Y本君とG寺君なら耳打ちで教えちゃうけど』…この女子生徒の発言から何が読み取れるか、わかる奴はいるか?」

「「はい!」」

 綱吉を除く2名が揃って挙手をした。その僅かな差を見取って獄寺が軽く舌打ちをする。
「山本の方がちょっと早かったな…山本、答えてみろ」

「『G寺がいかにY本のことを好きか』だと思います!」

「バカかてめぇは!何をどう考えたらそんなトンチンカンな答えが出てくんだッ!」
 それを聞いたバジルが、微かに震えながら口元を押さえて俯いた。
「見ろ、バジルも笑ってんじゃねぇか!バジル、この馬鹿に正解を教えてやれ」

「す…すみません、拙者も同じ答えでした…」

なんでだよ!!

「な、おまえもそう思ったよな!?」

(…なんか、バカばっかりなんだけど)
 しかし「もう帰ってもいいかな?」とは言い出せない綱吉だった。





☆Lesson.4


「この女子生徒はY本とG寺には非常に好意的で、男子生徒ならセクハラとなった先の発言も、この二人ならばただのコミュニケーションとして許すというある種の矛盾を述べている…これをキム○ク効果という」

(ナンダソレ)
 真剣に話を聞く二人の横で、綱吉が一人半眼になる。

「だが、もちろんキム○クが嫌いだという女もいる。そういう女にとってはたとえキム○クであってもセクハラになるということを決して忘れてはならない」
 そう言いながら教壇を離れた獄寺が真っ直ぐに山本の元へと向かう。

「いいか、セクハラにおける重要なキーポイントは『された側が不快に思ったら』だ!空気を読め!相手の表情を見ろ!自分なら何でも許されると思ってんじゃねえぞコラァ!!」

 ガッと山本の胸倉を掴み上げて獄寺は凄んだ。山本の眉がしゅんと下がっていく。
「ごくでら、そんなイヤだったのか」
「…え?」
「ごめん…二人の時は獄寺もちゃんと応えてくれてたから俺、そこまで嫌がられてるとは…思わなくて」
 本気で意気消沈していく山本を前に、獄寺は一変して焦った。
「ち、違…!オ、オレは、昨日みたいにおまえはちょっとやり過ぎな時があるから気ぃつけろってことを言ってるだけで…!」
 そこまで言うと、今度は耳まで真っ赤になって掴んだ胸倉をガクガクと揺らす。
「お、おまえ、昨日どんだけビビったと思ってやがんだ!来るなら電話くらいしろッ!!」
 はぁっ、と最後に荒ぐ息を吐いて獄寺が小さく唇を噛んだ。その朱の滲む恥らいの表情を見て山本が浮上し始める。

「…獄寺、俺のこと嫌じゃないのか?」
「……」

 確かな言葉は聞けずとも、耳まで赤い、少し拗ねたような表情がそのままに答えを教えてくれる。ぱぁっと山本の表情が晴れた。
「なんだよもー、俺すげぇマジで凹んだじゃん!良かったー!」
「だっ、抱きつくな!!」

 すりすりと獄寺に頬を擦り付ける山本はとても幸せそうで。
 なんだかんだいって獄寺もまんざらではない顔をしていて。

(…なんか勝手に丸く収まっちゃったんだけど…っていうかもう、こういうことは二人でやってほしいよな…)
 どうしていつもオレを巻き込むんだろう、と考えている今にも綱吉にとってのセクハラが始まってしまいそうだ。

 二人を置いてもう帰っていいよね?と振り返ると、バジルが重い表情で何やら考え込んでいた。
「キム○ク効果…じゃあやっぱりあの本に書いてあったことは本当だったんですね」
「バジル君?」
「沢田殿…拙者先日、伊訳された日本の著書を拝見したんですが…あの、『人は見た目が10割』っていう」
全てですか!?ちょ、それ、訳めちゃくちゃ間違ってるよね!?」
 抱きついてくる山本の身体を押しのけながら獄寺が訂正する。
「9割だろ」
「それでも9割…怖ろしい世の中ですね」
「バジル、それはしょうがねえって」
 驚愕するバジルに、グッと獄寺の肩を抱いた山本が爽やかな笑顔を見せた。


「だってさ、そうじゃねえと獄寺が生きていけねぇだろ?」
てめぇえええどういう意味だコラァアアアッ!!!


 セクハラ現場を見るのもごめんだが、犬も食わぬ喧嘩を見るのはもっとごめんだ。

「帰ろうバジル君」
「はい」
 二人はそっと、嵐の予感いっぱいの教室を後にした。



【完】


(拍手お礼文・2007/11/18 up)


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