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ぬるいですが、文中にエロい表現がありますのでご覧になれない方はブラウザバックプリーズ。
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 週末でもないのに山本が泊まっていくというので、食後のデザートよろしく風呂は後回しになった。
 そして夕食を食べてから約一時間半後。
 髪も身体も洗い終え、いざ湯船に浸かる時がきた。
 辛抱強く待っていた山本がスペースを空けて「はやく」と急かしてくる。白いにごり湯はとても良い香りがしていて、手で触れてみると心なしかまろやかな気がした。
 湯の温度は40℃。今日のような寒い日にはちょうど良い温度だ。しかし片足を突っ込んでみた獄寺にはやはり少しだけ熱く感じた。我慢できない程ではないが、ちょっと熱いな、と率直に感じる温度だ。
 ゆっくりと身体を浸していくと少年一人の体積分、水嵩を増したにごり湯が浴槽から溢れ出ていった。
「おー、すっげー増えた」
「増えたんじゃねえっつーの」
「はは」
 浴槽いっぱいの湯の中に座ってみれば、肩まで浸かっているような状態になって苦い顔をした。洗面器を掴んで、湯を浴槽の外へ流していく。
「何してんだ?」
「さすがにもうちょい、減らしたほうがいいだろ…」
「いっぱいすぎる?」
「ああ」
 大量の湯に全身を浸すというこの行為に一体何の意味があるんだろう、と獄寺は思う。髪や身体を洗うならシャワーで十分だとわかっているから余計だ。
 もちろん、一般的に言われる効能くらいは知っている。血行が良くなって凝りなども解れ、神経も休まってリラックス効果が期待できるといったところか。
 しかし、のぼせやすい獄寺にとって風呂はさして良いものではなかった。リラックス効果どころか逆に疲れてしまう。ただでさえ、風呂に浸かるのは割りと体力を消耗するのだ。
 獄寺が排水活動に勤しんでいると突然、山本が細い腕を掴んだ。
「なぁ獄寺、それやりながらでいいから、ちょっと後ろ向いて」
「何だよ?」
 腕を引かれて導かれるままに山本に背を向けて座る。
「ジッとしててな」
 山本はそう言って獄寺の両耳を掴むと、親指で耳の後ろをきゅっきゅっと擦りはじめた。
「な、何してんだよ!」
 わしわしと擦る音が耳に直接響いてくすぐったい。
「だってさ、さっき見てたら耳の後ろ洗ってねえんだもん」
「は…?耳?」
 うん、と頷いてごしごしと丁寧に擦る。
「ちゃんと洗わねーとダメだって、俺も昔オヤジによく言われたんだよなー」
「…ふーん」
(気にしたこともなかったな)
 思い返してみれば、確かに意識して洗ったことがない。髪を洗うときに嫌でも一度は指が通るものだからそれほど気にする必要があるとは思わなかったが、意識ある者からすればそれだけでは気になるのだろう。(耳の後ろ、ねえ…)と妙に感心しながら、獄寺は地味な排水活動を再開した。
 獄寺が洗面器に掬ったお湯で時折、指を気持ち洗いつつ丁寧に耳を洗っていく。
(あっちぃな…)
 顔が火照って、そろそろ浸かっているのも厳しくなってきた。
「よし」
 一通りごしごしして満足したのか、山本が耳を放した。洗われた方もすっきりした気分になって「サンキュ」と返す。向かい合うように反対側へ凭れに行こうと思った瞬間、後ろからぎゅっと抱き締められて獄寺は息を呑んだ。ちゅ、と耳にキスをされる。
「!」
「へへっ、すっげえ幸せ!」
「…」
 がっしりと回された腕を見る辺り、放す気は全くないようだ。続けて耳朶にキスを落とした山本が、そのまま首筋の薄い皮膚に唇を滑らせていく。ぞくりとして身体が震えた。行き着いた先で、また小さな音を立ててキスをする。
「く、くすぐってぇから止めろ」
「感じてるの間違いじゃねえの?」
 にやにやと笑いを含んだ声で言われて、かぁっとなって振り向く。
「…てめっ」
「ははっ、顔が赤いぜ獄寺」
「…」
 指摘されて思わず声が詰まった。言われたことに赤面したのと、湯の熱さで顔が火照ってることを考えれば相当赤いのに違いなくて恥ずかしくなってくる。
 見れば山本の顔は多少、頬が上気しているものの平然としていて。
 自分が髪や身体を洗っている時もずっと湯船の中で待っていたから、相当長く浸かっているのに熱くないのかと首を傾げてしまう。
「つーかおまえ、ずっと浸かってて熱くねえのか?」
「俺?別に熱くねえけど…そんなに熱い湯じゃねえし」
「そ、そうか……なら、いいんだけどよ」

(そんなに熱い湯じゃねえだと!?)
 こいつ信じらんねえ、と唇を噛む。自分はこんなにもいっぱいいっぱいだというのに。

「大ー丈夫だって、せっかく一緒に入れたのにすぐ上がるわけねえじゃん」
「別に、そういう意味で訊いたんじゃねえ!」
「じゃあどういう意味なんだ?」
「…、」
 ここで熱いなんて口にしたら負けだと、妙な闘争心に火がついて獄寺は口を噤んだ。
「まぁ、どんな意味でもいいけど」
 にーっと笑った山本が獄寺の輪郭を捕らえた。横を向かせられれば何をしたいのかはすぐに解る。唇が近づくにつれて、獄寺もゆっくりと目を閉じた。
 浴室に口づけ合う小さな音が満ちる。感触を味わう軽いキスが繰り返されて、次第に身体の内側から熱が高まっていく。
(―――…身体が、あつい)
 湯の中で、身体を這う山本の手が脇腹をなぞった。
「…っ」
 歯列を押し開けて侵入してきた舌に応えて自分からも絡めていく。息継ぐ間が足りなくて呼吸が乱れた。
「は…」
 身体の中も、呼吸も、熱くて溶けそうだ。
(やべぇ、…頭が、ぼーっと、してきた)
 外から内から、熱が回って思考を奪う。ここにきて、獄寺は負けだの何だのと言っている場合じゃないと思い直した。
(のぼせて倒れたら元も子もねえよな…)
 獄寺は、少し身体を引いて山本の口を手で塞いだ。
「…ちょい、タンマ…」
「?」
 足の付け根に向かって太腿を這っていた手も、ピタリと止まる。獄寺は山本の口からそっと手を下ろした。
「わりぃ…限界だ、もうあがる」
「えぇ!?まだこれからっていうか…10分も入ってねえじゃん?」
「熱いんだよ…これ以上入ってたら、茹で上がるっつーの…」
 赤い顔は少し眉が寄せられていて、表情を見ても辛そうなのがわかる。獄寺が一緒に風呂に入るのを拒否していた理由が解った気がして、山本は大人しく獄寺を解放した。
「…のぼせやすいのな?」
 入った時から懸命に湯を減らそうとしたり、少し顔が赤かったり、熱くないのかと訊いてきたり、今になってみれば思い当たる節がいっぱいだ。
 上がろうと立ち上がった獄寺が、ふら、とよろけて反対側の浴槽の縁に座った。
「…」
「大丈夫か?」
「ああ、こうしてりゃマシになるだろ…」
 脱力して、獄寺が大きく息を吐く。
 獄寺に触れなくなってシュンとしていた山本だったが、やがてピコ!っと閃くと水の蛇口を捻って自分の手を冷やし始めた。冬の水はかなり冷たいから手もすぐに冷えてくれる。火照った身体を冷やすには、浅いところに太い血管が通っているところを冷やすと良いと言う。合宿の時に風呂でのぼせた後輩が首や脇を冷やされていたのを思い出して、山本は冷えきった手を完成させて獄寺へと近づいた。
「こうやったら気持ち良いんじゃね?」
 獄寺の前で立膝をついて、冷えた手でその細い首を包み込んだ。こうすれば熱も取れて獄寺にも触れて一石二鳥だ。
 水に直接触れるよりもずっと心地よい冷たさで首の熱を取ってくれるそれに、獄寺はうっとりと目を閉じた。
「あぁ…すげぇイイ」
「…」
 溜め息混じりの声とそのセリフがやけに色っぽくて山本はドキっとした。意図せず煽られてしまって、じっと獄寺の唇を見つめる。湯に濡れた艶っぽい唇を見てるだけでも堪らなくなってくる。
 そもそも、心底惚れた相手を前に、上気して色付いた艶かしい肌を惜しげもなく晒されて何も出来ないはずがなくて。
 山本は首に手を当てたまま、目を瞑り続けている獄寺に小さく口付けた。ぬるくなった手を下げて胸に這わせ、冷えた首筋にキスを移して軽く皮膚を吸う。唇と舌を滑らせると細い身体がびくりとした。
「な…なに、してんだよ!」
 風呂上がってからにしろよと、獄寺が少し非難がましい視線を向ける。山本も、同じようにそれに返した。
「だって、あんなキスしといて我慢できねえよ」
「…」
 山本は知っていた。獄寺が言葉を返せない理由を。
「獄寺だって、このまんまじゃちょっと辛いだろ?」
 勃ち上がりかけのそれに向かって、獄寺の太腿に手を這わせる。
「誰のせいだよ…」
「うん、だから最後まで責任取らせて」
 両手で耳の下を包み込むように持ち、ちゅ、と軽く口付けて懇願する。
「獄寺はそのまま休んでていいからさ…続きさせて」
「続きって…オレ、今は何もしてやれねえぞ」
 山本は「ああ」と頷いた。熱さに参っている恋人に無理をさせたいわけじゃない。
「わかってるって、俺の続きは風呂上がってからな?」
「…つーか、それじゃスッキリすんのってオレだけじゃねーか」
 ここで続きしたっておまえ辛いだけじゃねーの、と返された山本は「大丈夫」と自信満々に頷いた。
「俺、獄寺のスッキリした顔だけでイケっから」
 一瞬、浴室に冷ややかな空気が流れた。
「………ド変態」
「紙一重で愛なのなー」
 ぶっ、と獄寺が思わず噴出す。
「何が紙一重だよ、おまえはほんっとに…―――」
 いつものように「バカだな」と言おうとして獄寺は思い直した。愛おしそうに黒い短髪をくしゃりと撫でて、言葉を変える。

「―――可愛いよな」
 やはり嫌がることはなく、山本は嬉しそうな笑顔を見せた。
「獄寺にそう言われっとなんか嬉しいな」
「…変なヤツ」

 そう言って弱った笑みを見せた獄寺が山本に口付けた。深い口付けを受けてそれに応えれば、獄寺の呼吸がまだ熱いのがわかる。
「…っ」
 口付けながら獄寺の半勃ち状態のものを山本が手で擦ると、すぐに硬く張り詰めた。
 唇を離れて、時折痕を残しながら下へ下へとキスを移していく。臍の下に軽く口付けた後、山本は細い腰に腕を回して熱くなった獄寺のそれを咥え込んだ。
「は…、ッ」
 山本の髪を掴み、声を噛み殺して、獄寺が「は…、は…っ、」と浅く短い呼吸を繰り返す。
 愛撫をしながら見上げた山本の目に、参ったように眉を寄せて、目元や頬を上気させながら呼吸を整えようと必死になっている獄寺の顔が映った。この困ったような可愛い顔だけで本当に、一人の時でも何回でもイケるよなと思う。俄然頑張りたくなってピッチを早めていく。
「は、ぁ…っ、はぁ、はぁ…」
 唾液を絡めて緩く吸い上げながら、手も使って丁寧に愛撫を繰り返せば獄寺は堪らずに上体を折った。
「だ、めだ出る…!もう、放し…―――ッ!!」


 爪先から頭の天辺まで、一瞬で全身を突き抜けるような快感に頭がクラッとした。
 と、同時にフ…ッと目の前が暗くなっていく。


「ぁ…っ、―――…」
 ズル、と腰を滑らせて獄寺が湯船へと倒れこんでゆく。受け止めたものを飲み干して口角を指で拭っていた山本は、ぎょっとして慌てて獄寺を受け止めた。
「ご、獄寺!?おい、大丈夫か!?」
 揺さぶっても、ペチペチと頬を頬を叩いても、赤い顔でぐったりとして反応がない。
「え…、ま、まじで?しっかりしろ獄寺!!」
 突然の非常事態に山本は青ざめた。




*****




 心地よい水音に目を覚ますと自室の天井が映った。見慣れた視点からすぐに、ベットに寝かされているのだとわかる。頭に濡れた感触がして見てみると、濡れているのは自分の髪で、枕の上に厚手のタオルが敷かれていた。枕の上だけじゃない、身体の下にもタオルが敷かれている。
「お、気がついた」
 次に緑の瞳に映ったのは、少しホッと眉間を緩めて覗き込む山本の顔だった。傍に座って、冷えたタオルを獄寺の額に押し当てて、まだ心配そうに眉を下げる。
「大丈夫か獄寺?」
「オレ…」
 自分の身に何が起こったのか、すぐに思い出せて最悪の事態に深い溜め息がでる。ゆっくりと上体を起こした獄寺に、山本はパン!と両手を合わせて頭を下げた。
「ほんとにごめんな…!?倒れるなんて思わなくて…すげぇバカなことした」
「いや、あれは…」
「気分悪いとかねえか?しんどいとか、まだボーっとしたりとか、熱いとか」
 心配で仕方ないのか、獄寺の頬を撫でたり額に手を当てたりして山本は頻りに訊ねる。
「ああ…大丈夫だ」
「なら、いいんだけどさ…、あ、これ着替えな?あと水もここに置いてっから…ああ、あと髪も乾かさねーと風邪ひくよな?ちょっと待ってな、ドライヤー取ってくっから!」
「オイ、やまも…」
 引き止める声も聞かずにドライヤーを取りに飛んで行ってしまう。心配しているのは解るが、あまりのテンパり具合にちょっと落ち着けよと突っ込みたくなってくる。
 用意された着替えを前にとりあえず服を着ようと、腹に掛けられたタオルを除けた。素っ裸の身体に着替えを身に着けながら、己の失態に獄寺は苦い顔になる。
(結局、倒れたのかよ…)
 山本は自分が悪いとばかりに謝っていたが、別に山本が悪いわけじゃない。断わらなかったのは自分だ。ああして欲しかったのは自分も同じだったのだ。
(つーか情けねえ)
 のぼせた上にイッて気絶したなんて格好悪いにも程がある。山本の願いに応えてただ喜んで欲しかっただけなのに、それでこんなにも心配させてしまったのでは意味が無い。
(変な意地張ってねえで、熱いってさっさと言やぁ良かった…)
「おまたせー」
 着替えを終えたところで、ドライヤーを持って山本が戻ってきた。ドライヤーのプラグをベッド近くのコンセントに突っ込んで獄寺の後ろへと回る。
「熱かったら言ってな?」
「…ああ」
 どうやら乾かしてくれるらしい。罪悪感からか、そうしないと気も済まないのだろう。山本の甲斐甲斐しい姿勢に思わず苦笑いをしてしまう。
 ドライヤーのスイッチが入って山本の大きな手が銀髪を解し始めた。全体を軽く解した後で、髪を手櫛で分けながら少しずつ乾かしている。その丁寧さが山本にしては少し意外な気がした。
「何色っていうんだろーな、前から思ってたけどすげぇキレーな髪だよな」
 モーターと温風の煩い音に雑じって、そんな声が聞こえてくる。緩く髪を引っ張られながら乾かされるのが気持ちがいい。
 髪を乾かされている間に辺りを見れば、簡易テーブルの上に水の入った洗面器と絞ったタオルが2つ転がっていた。下の絨毯にもタオルが落ちていたりして、こうして少し見ただけでも、気を失った人間を浴槽からベッドまで運んで介抱したのはかなり大変だったのだろうと分かる。
(すげえ面倒掛けちまったな)
 髪を乾かす優しい手が少し心苦しくも感じる。されるがままに乾かされて数分後、ドライヤーのスイッチが切れた。
「おし、もういいぜ」
「…サンキュ」
 適当に乾かされてボサボサになるんじゃないかと思ったが杞憂だったらしい。触ってみれば湿った箇所もなくキレイに乾いている。
 髪を確かめる獄寺を後ろから包み込むように抱いて山本は訊ねた。
「なぁ獄寺、ちょっと身体冷えちまってねえか?熱取んなきゃって俺、タオル濡らしておまえの身体冷やしたんだよな」
 言われてみれば少し肌寒い気もしたけれど取り立てて言うほどでもない。ベッドに入ってしまえば気にならないくらいだろう。
「湯、まだ温かいけどもっぺん入り直すか?その間に俺、タオルとか片しとくし」
 心配性な山本の気遣いに弱ったような微かな笑みを浮かべ、獄寺は緩く首を振った。
「いや、風呂はもういい…片付けも明日でいいだろ」
「…けどよ」

 片や恋人の為に熱さに耐えて、挙句に倒れて。
 もう片や突然倒れた恋人に焦って慌てて、テンパりながらも看病に努めて。
 思い返してみれば散々だったけれど、図らずも互いに『愛を確かめ合えた』んじゃないかと思う。

 獄寺は振り返って山本の輪郭を捕らえると、軽く口付けた。
「このまま寝ようぜ。風呂なんか入り直さなくても、一緒に寝りゃ十分あったまれるだろ」
 そう言いながらベッドの上のドライヤーも敷かれていたタオルも全部床へと放り落とし、山本の腕を掴んでベッドの中へと誘い込む。
「おまえの続きもまだだしな?」
 獄寺の貴重なお誘いに、愁眉を開いた山本の顔が少し赤くなる。
「い…、いいのか?」
 相手の身体を気遣って今だ遠慮がちな山本に最後の一押しを送る。獄寺は山本の胸倉を掴んで引き寄せた。

「オレはおまえのせいで身体が冷えてんだ、責任取って温めやがれ」
「!!!」

 言った後で(ちょっと煽りすぎたか…?)と気づいた獄寺だったがもう後の祭りだ。かつてない大胆な誘い文句に、山本の熱が急上昇する。
「獄寺ッ!!!」
「でっ」
 勢いよく抱き締められてベッドへ押し倒され、ちゅー…っと、触れるだけの長いキスをされる。唇を離した後、山本はもう一度強く細い身体を抱き締めた。

「あぁも〜まじで、すっっっげぇ可愛い!大好き獄寺!!!愛してる!!」
「…―――」

 やはり、相変わらず山本の言う『可愛い』は少し複雑な気持ちにさせるけれど。
(…まぁ、いいか)

 至極幸せそうな顔で、山本が笑っていて。
 望んだ結末が今ここにある。
 終わりよければ全て良しというが、本当に、最後にこの笑顔が見れたのならそれで良しだ。

 覗き込んでくる山本の目を見つめ返して「―――オレも」と指の背で頬を撫でると、瞬いて頬を赤くした山本が小さく息を呑んだのがわかった。
 いつになく素直で甘い獄寺の声に、黒茶色の瞳が熱を宿して蕩けていく。
 頬に触れる手を緩く掴まれ、求めるように五指を開けば自然と指が絡んだ。甘いムードに心が酔い始め、頬や目に熱が灯っていくのが自分でも判った。
(たまにはこうやって素直になんのも、悪くねえよな)
 どくんどくんと鼓動が踊り出して、癖になってしまいそうな不思議な高揚感で胸がいっぱいになる。
 柔らかい口付けに緑の瞳をそっと伏せて、獄寺は肌をまさぐる大きな手にその身を委ねた。



end



(2008/06/18 up)


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